文字起こし前の音質改善:直すべき点
音質の悪い録音の多くは、文字起こしの前にきれいにする必要がありません。いまの音声認識モデルは、一定の背景ノイズ、小さな声、安いマイクに、人の耳が想像するよりずっとうまく対応します。対応できないのは、そこにない声です。音割れした音節、2人が同時に話している部分、もっと大きな音に埋もれた発話がそれにあたります。まず録音をチェックし、手を加えて本当に改善するものだけを直し、音声の修復に午後をまるごと使う前に文字起こしを試してください。
1分で録音をチェックする
ファイルを音声品質チェッカーにドロップします。声のレベル、背景ノイズ、その差(S/N比、信号対雑音比)を測り、音割れ(クリッピング)や無音のチャンネルを探して、わかりやすい判定を出します。ファイルはアップロードされず、ブラウザの中で動きます。
いちばん大事な数字はS/N比です。話し声の目安として、25 dB以上なら余裕があり、15〜25 dBならたいていは問題ありませんが、小声の言葉、名前、数字から抜けていきます。15 dBを下回ると抜けが出ると考えてください。音量そのものはそれほど重要ではありません。静かな部屋で録った音量の小さいファイルは、問題なく文字起こしできます。
問題別:何が効くか
| 問題 | 聞こえ方 | 文字起こしは耐えられるか | 効く対策 |
|---|---|---|---|
| 一定のノイズ:換気扇、エアコン、車の走行音 | 声の下でずっと続く「サー」「ゴー」という音 | たいていは大丈夫(S/N比がおよそ15 dB以上なら) | 多くの場合、何もしなくてよい。ひどい場合はノイズ除去を控えめに:ブラウザで使える無料の背景ノイズ除去ツール、または Audacity(無料)の Noise Reduction |
| マイクから遠く、声が小さい | 聞き取るために音量を上げる | 部屋が静かなら、たいていは大丈夫 | 文字起こしのためには何もしなくてよい。人が聴く場合だけレベルをノーマライズする |
| 広くがらんとした部屋の反響 | 言葉同士がにじんで重なる | 一部のみ:短い言葉や語尾が崩れる | 後からできることはわずか。次回は話し手の近くで録る |
| 音割れ(クリッピング):録音レベルが高すぎた | 大きな音節でバリバリと歪む | 音割れした部分は弱い | 修復はできない。軽い場合は Audacity の Clip Fix でやわらげられる |
| 2人が同時に話す | 重なった言葉のかたまり | 大きい声が勝ち、もう一方は失われる | 打つ手はない。録音中に言い直してもらうか、その箇所をメモしておく |
| 長い無音や空白の時間 | パートの間に何分も何もない | 問題ないが、無音の分も料金がかかる | 無音カットでアップロード前に空白を縮める |
| 声の下に音楽 | BGMが声と張り合っている | 音楽の大きさしだい | 確実な方法はない。ボーカル除去ツールは声まで傷めることがある |
無理のない作業の順番
- チェッカーにかける。 判定がよければ、ここで終わりにして文字起こしします。
- きれいにする前に、一部を文字起こしする。 Speechoは最初の15分が無料なので、この録音をそのままでモデルが扱えるかを確かめるには十分です。多くの場合は扱えて、修復はそもそも必要なかったとわかります。
- サンプルで見えた問題だけを直す。 ハム音の下で言葉が抜けているなら、ノイズ除去を控えめにかけて、同じ部分をもう一度文字起こしします。結果がよくならなければ元に戻してください。強すぎるノイズ除去は声を細くし、かえって認識しにくくすることがあります。
- 長い録音は空白の時間をカットする。 2時間のセミナーに40分の休憩があれば、その40分は払わなくてよい分です。無音カットはWAVファイルで保存され、1分あたり約10 MBになります。アップロード上限の200 MBを超える場合は、音声の抽出ツールでずっと小さいMP3に変換できます。このツールは音声ファイルも受け付けます。
- 動画ファイルは、そのままアップロードする。 ファイルが大きすぎる場合は、先に音声トラックだけを取り出します。映像が文字起こしの役に立つことはありません。
AIの「音質向上」ツールについて
AIの音声強調ツールは、録音を人の耳にきれいに聞こえるようにします。ポッドキャストや動画なら、それには大きな価値があります。ただ文字起こしについては、期待するほどの効果はありません。ツールが取り除くもののほとんどを、音声認識モデルはもともと無視しているからです。ひどく傷んだ音声では、逆効果になることもあります。もごもごした言葉が、はっきりした自信ありげな別の言葉になって出てきて、その誤りが文字起こしに引き継がれます。使う場合は、強調したファイルと元のファイルの文字起こしを比べてから信用してください。
録り直したほうが早いとき
救う価値のない録音もあります。文ごとに音割れする声、ゲストがスマホから部屋ひとつ離れていたインタビュー、全員が同時に話していた会議などです。やり直せるなら、マイクを口から手のひらひとつ分の距離に置いて録り直せば、どんなソフトにもできないことが10分で解決します。それにはブラウザのボイスレコーダーで十分です。チェッカーには、始める前に使えるマイクのライブテストもあります。
よくある質問
文字起こしの前に背景ノイズを除去すべきですか?
たいていは不要です。まず文字起こしを無料で一部試してください。一定のノイズがいまの音声認識モデルの邪魔になることはまれで、強いノイズ除去はかえって声を認識しにくくすることがあります。音声をきれいにするのは、サンプルで言葉が抜けているとわかった箇所だけにしましょう。
音割れや歪んだ録音は直せますか?
実質的には直せません。波形の山は録音の時点で切り取られていて、その情報は失われています。Audacity の Clip Fix で軽い音割れを聴きやすくすることはできますが、その部分の文字起こしは弱いままです。
音量の大きいファイルのほうがよく文字起こしされますか?
いいえ。大事なのはファイルの音量ではなく、声がノイズからどれだけ浮き出ているかです。録音の音量を上げると、ノイズも声とまったく同じだけ大きくなります。
文字起こしに適したS/N比はどれくらいですか?
目安として、25 dB以上なら余裕があり、15〜25 dBならたいていは問題なく、15 dBを下回ると抜けが出ると考えてください。音声品質チェッカーで、ファイルの数値を確認できます。
なぜ無音に注意するのですか?
文字起こしは音声の長さで課金されるからです。長い休憩、講演が始まるまでの待ち時間、全員が退出したあとの数分も、すべてカウントされます。先にカットしておけば、言葉にはまったく手を付けずに費用を下げられます。