クリーン・ヴァーベイタムとフル・ヴァーベイタム。何が削られ、AIが実際に返すのはどちらか
文字起こしの発注フォームは必ず同じことを訊いてきます。そして初めて発注する人のほとんどは当てずっぽうで答えます。「クリーン・ヴァーベイタムとフル・ヴァーベイタム、どちらにしますか」は品質設定のように見えます。違います。これは何を記録とみなすかの判断です。その人が話したことなのか、その人が話そうとしたことなのか。片方に間違えると誰も読めない文字起こしにお金を払うことになり、もう片方に間違えると、証人の発言を黙って編集したことになります。
同じ15秒の発話を各レベルで並べ、それぞれが何を削るのか、誰に本当に必要なのか、そしてAIが文字起こしを返してきたとき手元にあるのは実際には何なのかを見ていきます。
ひとつの発言、三つの文字起こし
企画会議で誰かがこう言ったとします。
フル・ヴァーベイタム:
えーと、その、火曜に、なんか、出したほうがいいと思うんですけど。[笑い] あ、いや、水曜。水曜でも大丈夫です。
クリーン・ヴァーベイタム:
火曜に出したほうがいいと思うんですけど。いや、水曜。水曜でも大丈夫です。
編集済み(「インテリジェント・ヴァーベイタム」として売られることもある):
火曜か水曜に出すのがよいと思います。
一つ目は録音をテキストの形にしたものです。二つ目は話者が「これでいい」と署名できるものです。三つ目は言い換えです。短く滑らかになり、そしてもう引用ではありません。文字起こしと呼べるのは最初の二つだけです。
各レベルが削るもの
業界の定義は表にできる程度には一致しています。フル・ヴァーベイタムはRevの定義によれば「音声ファイルで話されたすべての語を一語一句書き起こす」こと、クリーン・ヴァーベイタムは言い換えをせずに「読みやすさのために軽く編集した」ものです。2026年9月確認。
| 削られるか | フル・ヴァーベイタム | クリーン・ヴァーベイタム | 編集済み |
|---|---|---|---|
| ためらいの音: えー、あの、うーん | 残る | 削る | 削る |
| 口癖: なんか、まあ、っていうか | 残る | 削る | 削る |
| 言いかけ: 「火曜に、その、火曜に」 | 残る | 削る | 削る |
| どもりと語の重複 | 残る | 削る | 削る |
| 自己訂正: 「火曜。いや、水曜」 | 残る | 残る | 統合される |
| 相手の「はい」「うんうん」 | 残る | 通常は削る | 削る |
| 非言語: [笑い]、[咳]、[沈黙] | 残る、タグ付き | 削る | 削る |
| 話し言葉と文法 | 話されたまま | 話されたまま | 直される |
| 文の構造 | 話されたまま | 話されたまま | 書き換えられる |
議論の大半はこの表の二行で決まります。自己訂正はクリーン・ヴァーベイタムでも残します。「いや、水曜。水曜でも大丈夫です」は話者が記録の上で考えを変えた瞬間であり、これを切ると意味が変わります。そして文法は話されたままにします。クリーン・ヴァーベイタムはノイズを取り除くものであって、日本語を直すものではありません。文字起こしが文法を直し始めた瞬間、それは編集の側に移っており、もう鉤括弧で括ることはできません。
フル・ヴァーベイタムが必要な人と、その代償
フル・ヴァーベイタムが必要なのは、何が言われたかだけでなく、どのように言われたかに分析が依存する人です。
- 法的手続き。 証人の「えー、その、覚えていません」を落とした証言録取の記録は、後に弁護士が争点にするまさにその躊躇を消してしまっています。法廷速記者がすべてを書き取るのはこのためです。
- 発話そのものをコード化する質的研究。 会話分析、談話分析、心理学や言語学の一部では、沈黙も言いかけもデータそのものです。
- オーラルヒストリー。 アーカイブは史料です。きれいにすることは、証拠ファイルの写真を修整するのと変わりません。
その代償は現実のもので、しかも測定されています。ガーナの二つの地域保健トライアルに基づく2022年のEmerging Themes in Epidemiologyの研究は、逐語の文字起こしにインタビュー1時間あたり6〜10時間かかったのに対し、聞き手が書き起こす詳細メモは1〜2時間だったと報告しています。結論は「逐語は常に必要だ」ではありませんでした。比較的単純な応用的問いであれば、十分な指導のもとでのメモで足りるということ、そしてフォーカスグループのように相互作用そのものが意味を担う場面では、メモは「相互作用と豊かさを捉えられなかった」ため逐語がなお必要だということでした。これが正直な答えの形です。手ざわりこそが知見となる場面では逐語を、それ以外では不要、ということです。
クリーン・ヴァーベイタムが必要な人
それ以外のほぼ全員で、多くのサービスが標準として見積もるのもこちらです。
- ポッドキャストの文字起こしとショーノート。 「えー」を読みにポッドキャストのページを開く人はいません。
- 記事のためのインタビュー。 ここから引用することになります。そして引用とは本来、話者の言葉から、話者自身なら取り除くはずのノイズを引いたもの、つまりクリーン・ヴァーベイタムです。(引用の内側で何を切ってよいかは別の問題で、独自の規則があります。引用から何を削ってよいかで扱っています。)
- 会議メモ、講義、学習用資料。 大事なのは中身であり、フィラーはいちいち速度を落とす段差です。
- 字幕。 フル・ヴァーベイタムの字幕は読速の規則に二重に違反します。フィラーが文字数を食い、言いかけがそれ自体で細切れのキューになるからです。これは字幕のタイミング規則で挙げた失敗のひとつです。
AIの文字起こしは実際には何なのか
発注フォームが決して説明しない部分なので、はっきり書きます。
AIの生の出力はどちらでもありません。 音声モデルの学習データの多くは字幕付きの音声で、字幕は「えー」を書きません。そのためモデルも書かないことを学習しました。現代のどのエンジンでも、生の文字起こしは語の大半を残しつつ、ためらい・どもり・繰り返しを予測できない割合で落とします。フル・ヴァーベイタムが許すよりは多く落とし、クリーン・ヴァーベイタムが求めるほどには落としません。法務や研究の基準が「フル・ヴァーベイタム」と定めているなら、未確認のAI文字起こしはそれを満たしません。マーケティングのページに何と書いてあってもです。誰かが音声と突き合わせて確認する必要があります。
クリーン・ヴァーベイタムはAIが本当に得意な領域です。ただし条件がひとつあります。 Speechoはこれを二か所で行っており、意図的に動作が異なります。
フィラーワードカウンターはリスト方式で削除します。12言語それぞれの既知のためらい音と口癖に、自分で追加した語、そして直後の語の重複を加えたものです。無料で、ブラウザ内で動き、何かを削除する前に一致箇所をすべてハイライトします。ですから「まあ、いいか」の「まあ」が消されようとしているのを目で見て、戻すことができます。言いかけと自己訂正には手を出しません。単語リストでは「火曜に、その、火曜に」と意図的な繰り返しを見分けられないからです。
Speecho本体では、ノートスタイルの**クリーンなテキスト(フィラーなし)**が言語モデルでより踏み込んだ処理を行います。フィラー、言いかけ、どもり、直後の自己訂正(訂正後の版を残す)を削り、削除によって必要になった箇所の句読点を直します。段落ごとに処理し、それ以外は要約も短縮も並べ替えも言い換えもしないよう指示されています。この指示こそがクリーン・ヴァーベイタムと編集を分ける全てであり、だからこそ出力は公開前に一度読むべきです。規則に従うモデルは、引用を確認する人間ではありません。
どちらも三列目を作ってはいけません。 話者が言ったものより短く滑らかな文が返ってきたなら、それは整えたのではなく編集したのであり、その結果に鉤括弧を付けることはできません。
判断の目安
問いはひとつです。これがどのように言われたかを、いつか誰かが争う必要があるか。あるなら、つまり法廷、倫理委員会、将来の歴史家なら、フル・ヴァーベイタムを保ち、AIの文字起こしは下書きとして扱い、音声と突き合わせて確認してもらいます。ないなら、クリーン・ヴァーベイタムが正しい記録であり、それはAIがうまく作れるものです。文字起こしをして、クリーン処理をかけ、一度読み、公開する。
いずれにせよ、取っておくべきは生の文字起こしです。逐語のファイルはいつでもきれいにできます。きれいにしたファイルを元に戻すことはできません。