スピーチ原稿の書き方:構成と例文
スピーチ原稿を書くときは、まず聞き手に覚えて帰ってほしいことをひとつに決め、持ち時間に何文字入るかを確認します(落ち着いたペースで1分あたり約325字)。そのうえで、注意を引きつける導入、それを支える3つのポイント、そのひとつのことを繰り返す結び、という4つのパートで組み立てます。耳で聞くための文章として書き、タイマーを使って声に出して読み、時間に収まるまで削ります。この記事では、構成、そのまま手直しして使える2分間のスピーチ例文、コピーして使えるテンプレート、聞き手がいなくてもできる練習法を紹介します。
まず一文で書く
書き出しを考える前に、スピーチ全体を一文で書いてみましょう。あなたが話し終えて席に戻ったとき、聞き手に何を考え、何を感じ、何をしてほしいのか。「佐藤さんのおかげでこのチームは良くなった。いなくなるのは寂しい」「自治会の春の清掃に、ボランティアが20人必要です」「新しいシフトで、全員が週に1時間早く帰れます」。
この一文が書けないなら、スピーチはまだ準備ができていません。どんな構成を使っても救えません。そのあとに書く段落は、すべてこの一文を支えるか、削るかのどちらかです。
スピーチの長さは何文字が目安?
日本語のスピーチは、1分あたり300〜400字ほどで話す人がほとんどです。緊張すると速いほうに寄りがちで、原稿を読み上げると、メモを見ながら話すより速くなるのが普通です。1分325字で計画しておけば、持ち時間に近い長さに収まります。
| 持ち時間 | 落ち着いたペース(325字/分) | 速めのペース(400字/分) |
|---|---|---|
| 1分 | 325字 | 400字 |
| 2分 | 650字 | 800字 |
| 3分 | 975字 | 1,200字 |
| 5分 | 1,625字 | 2,000字 |
| 10分 | 3,250字 | 4,000字 |
| 20分 | 6,500字 | 8,000字 |
持ち時間の1割ほどは、間や笑い、誰かのスマホが鳴る瞬間のために空けておきましょう。5分の予定の挨拶が7分になるのは、スピーチでいちばんよくある失敗で、しかも防げる失敗です。下書きをスピーチ時間計算ツールに貼り付ければ、あなたのペースで何分かかるかが分かります。
構成:導入、3つのポイント、結び
導入:最初の30秒で聞き手をつかむ
聞き手は最初の30秒で、聞くかどうかを決めます。その時間を「本日はお招きいただきありがとうございます。○○と申します」や、緊張していることへのお詫びに使うのはやめましょう。代わりに、次のどれかで始めます。
- 具体的な場面。「佐藤さんに初めて会ったとき、佐藤さんはクリップ1本で事務所のプリンターを直していました」
- 聞き手がすでに抱いている疑問。「なぜ3月に公園の掃除をするのでしょうか」
- 意外な数字。「昨年は40人が、市の作業班がやる仕事をひと朝で終わらせました」
場にふさわしければ、導入のあとに一文だけ感謝を述べます。
3つのポイント:主張ひとつに、例をひとつ
3という数に魔法があるわけではありませんが、聞き手がメモなしで覚えていられるのはそのくらいです。各ポイントは、主張ひとつと、それを裏付ける具体的な例やエピソードひとつでできています。例のない主張は忘れられます。主張のない例は、どこにもたどり着かない思い出話です。
ポイントの間は、「まず」「二つ目に」「最後に」のような分かりやすい道しるべでつなぎます。紙の上ではぎこちなく見えますが、声に出すと、聞き手は今どこにいるのかが分かります。
結び:伝えたいことをもう一度言う
最初の一文に、ほぼ同じ言葉で戻ります。聞き手に何かしてほしいなら、何をいつまでにするのかをはっきり言いましょう。「今夜、入口で申し込んでください」。最後の一文は短くして、そこで終えます。強い一文のあとの「ありがとうございました」はあってもなくてもかまいませんが、弱い一文のあとに「……ということで、以上です。ありがとうございました」と続けると、結び全体が台無しになります。
目で読む文章ではなく、耳で聞く文章を書く
スピーチは一度しか聞いてもらえません。話し手のスピードで流れ、聞き手が一文を読み返すこともできません。だから書き方が変わります。
- 短い文。 一文にひとつの内容。息継ぎが必要なほど長い文は、二つに分けます。
- キーフレーズを繰り返す。 文章で読むと繰り返しは水増しに見えますが、耳で聞くと強調に聞こえます。
- 数字は丸める。「3割近く」は伝わりますが、「31.4%」は伝わりません。
- 抽象より具体。「ベンチを40台塗り直しました」は「公共施設の環境を改善しました」に勝ります。
- 書きながら声に出して読む。 あなたがつかえる箇所では、聞き手もつまずきます。練習で乗り切ろうとせず、その一文を書き直しましょう。
2分間のスピーチ例文
同僚を送り出す送別会のスピーチです。約650字なので、落ち着いたペースでちょうど2分です。細かいところはご自身の話に置き換えて、形はそのまま使ってください。
佐藤さんに初めて会ったとき、佐藤さんはクリップ1本で
事務所のプリンターを直していました。入社2日目のことです。
誰かに頼まれたわけではありません。
この6年間は、まさにあの光景のとおりでした。
今日はお集まりいただき、ありがとうございます。
佐藤さん、2分間だけ照れくさい思いをさせてください。
佐藤さんについて、皆さんがご存じないかもしれないことを
三つお話しします。
まず、このチームが今もあるのは佐藤さんのおかげです。
4年前、予算が削られたとき、佐藤さんは週末をまるごと使って
企画書を書き直しました。月曜日、部長は
「今年読んだ中でいちばん分かりやすい1枚だ」と言いました。
私たちは仕事を失わずに済みました。
佐藤さんは、そのことを一度も口にしませんでした。
二つ目に、この部屋の半分の人は、佐藤さんに仕事を教わりました。
この5年間に入った人に、最初の1か月、誰が質問に答えてくれたか
聞いてみてください。佐藤さんです。
たいてい、封筒の裏に図を描きながら。
その封筒を、今も持っている人がいます。
最後に、佐藤さんは金曜日を楽しくしてくれました。
金曜の朝ごはん会、川についての難問ばかりのクイズ、
なぜかいつも同じ曲で終わるプレイリスト。
どれも佐藤さんの業務ではありませんでした。
でも、みんながこのチームに残ったのは、そのおかげです。
新しい会社の皆さんは幸運です。
クリップの件も、すぐに知ることになるでしょう。
佐藤さんの仕事が見られないのは寂しいですが、
佐藤さんがいなくなるのは、もっと寂しいです。
佐藤さんのおかげで、このチームは良くなりました。
私たち一人ひとりも、成長できました。
佐藤さんに、乾杯!
この例文がしていることに注目してください。具体的な場面で始め、そのすぐあとに一文だけ感謝を述べ、エピソードをひとつずつ添えた3つのポイントを道しるべでつなぎ、最初の一文を繰り返す結びを経て、短いひとことで終えています。
コピーして使えるテンプレート
伝えたい一文:聞き終えた人に、何を考え、感じ、してほしいか?
導入(20〜30秒)
具体的な場面、聞き手がすでに抱いている疑問、または意外な数字。
場にふさわしければ、感謝をひとこと。
ポイント1:主張
それを裏付ける例やエピソード。
ポイント2:主張
それを裏付ける例やエピソード。
ポイント3:主張
それを裏付ける例やエピソード。
結び(20〜30秒)
伝えたい一文を、ほぼ同じ言葉でもう一度。
してほしいことと、その期限。
短い最後の一文。そこで終える。
聞き手なしでリハーサルする
- タイマーを使って、声に出して3回読む。 1回目で、言いにくい文が見つかります。2回目で、長さが分かります。3回目には、読むのをやめて話し始めています。下書きのたびにスピーチ時間計算ツールに通せば、勘に頼らずに済みます。
- 録音して聞き返す。 ブラウザで使えるボイスレコーダーで十分です。一度聞くだけで「えー」「あのー」や早口になっている箇所が分かります。動画でスピーチをするなら、録画ツールでカメラのプレビューの上に原稿を流せるので、聞き手から見た自分の目線を確認できます。
- 原稿から口癖を削る。「なんか」「ちょっと」「やっぱり」「本当に」などは、原稿をフィラーワードカウンターに貼り付ければ一覧で表示されます。話すときの「えー」は、代わりに間を取ることで直す癖です。数えるより、録音で聞くほうが気づきやすいものです。
- 原稿をどう手元に置くか決める。 収録するスピーチやオンラインのイベントなら、テレプロンプターを使えば下を向かずに読めます。壇上なら、最初の一文、3つのポイントの見出し、最後の一文を書いたカードが1枚あれば十分です。カードをちらっと見ても、誰も気にしません。
よくある質問
5分のスピーチは何文字ですか
落ち着いたペースで約1,625字、早口なら2,000字までです。間や聞き手の反応の分を見込んで、1,500〜1,600字くらいで計画しましょう。
スピーチはどう始めればいいですか
具体的な場面、聞き手がすでに抱いている疑問、または意外な数字で始めます。感謝の言葉は2文目か3文目に回し、お詫びから始めるのは避けましょう。
スピーチはどう締めくくればいいですか
伝えたいことをほぼ同じ言葉で繰り返し、聞き手にしてほしいことを伝え、短い一文で終えます。そして話すのをやめます。最後の一文のあとの間も、結びの一部です。
スピーチは原稿を読んでもいいですか
動画やオンラインのスピーチなら問題ありません。特にテレプロンプターを使えば、原稿は誰にも見えません。壇上で一字一句読み上げると、たいてい平板に聞こえます。導入、3つの見出し、最後の一文を書いたカードを見ながら話しましょう。
何回練習すればいいですか
声に出して最初から最後まで、少なくとも3回。そのうち1回は録音します。頭の中での練習は数に入りません。問題は、自分の声を聞いて初めて見えてきます。